(晩秋-楓)
11月になると、ぐっと夜の到来が早まります。朝・夕の冷え込みも強くなり、虫たちの声もいつのまにか消えているのに気がつきます。自然界は人間世界よりひと足先に冬の準備に入っているようです。
急激な円安に思う
11月に入っての急激な円安は、今後どのような影響を日本経済に及ぼすのか?期待と不安が交錯します。
このところの経済の停滞感と国際商品価格の低下に促されるかたちで、日銀は、再度インフレ期待に働き駆けるべく、2度目の大胆な金融緩和を実施。2%のインフレ目標は不退転の覚悟であることを示しました。また折しも米国の経済成長の足腰の強さが再認識され、金融緩和の出口戦略の第二ステージが視野に入り、ドルの金利上昇圧力から、円からドルへの資金の流れが加速しました。結果、一時は115円/ドルを記録する円安が生じました。ただ、この現象のベースには、日本の貿易収支の悪化、最近では経常収支の悪化まで発生するようになった国際収支上の構造的要因があることに留意せねばなりません。要は、滑りやすくなった氷の上での現象と捉えた方が良さそうです。従って、この円安は、あまり寄り戻しはしない一定方向性の性質を有していると考えられます。
さてこの急激な円安に株価は即座に反応しました。輸出関連銘柄を中心にした上昇で、消費への資産効果の影響は確かにあるかもしれません。その意味では陰りのある消費によい影響を与えるかもしれません。しかしそれだけではやはり一時的なものになってしまいます。持続力のある消費のエンジンを確実に回転させるには、実質賃金の上昇が欠かせません。残念ながら、実質賃金の上昇が見られるのは、グローバル企業と若干の輸出関連企業郡だけではないでしょうか。
ちょうど2年前のこのリサイクル通信で貿易収支の長期的悪化傾向が予想され、「・・投機筋をも含めた為替を巡る、ある種のせめぎ合いが臨界点に達した後、円安は加速度的にすすむのではないか・・」と書きました。(その当時は、1ドル81円前後だったと記憶しています。)その中で、さらに、円安になったからと言っても海外に出て行った企業は、国際経済学の理論よろしく、おいそれとは国内にもどっては来ないとも書きました。ここにきて、まさにその通りとなってしまいました。
今年に入り、円安が定着化した後も、Jカーブ効果によりすぐには輸出数量が伸びないと言い続けていた偉い人たちも、なかなかJカーブ効果が表れないのに戸惑いを感じています。しかしよくよく考えれば当然です。主要な輸出産業は円高の時代に現地化を図ってしまったのですから。思ったほど輸出が伸びないのは当然です。国内に戻って輸出を再開するより、むしろ海外資産をそのままにして、海外所得の円換算メリットを享受した方がいいとも言えます。また、過去の円高を乗り切れた輸出企業の製品は国際競争力のある付加価値の高い商品群でしょうから、円安になったからと言って、外貨ベースの価格を敢えて下げ数量を追い求めることもしないかもしれません。確かに一部企業には、国内工場を再開会する動きもありますが、米国のシェールガス革命のようなエネルギーコストの減少に起因する企業の米国回帰のようなことは日本では起こらないと考えられます。
そう考えますと、国内でしか生存領域をもたない企業にとっては、極端な円安は、コストの上昇しかもたらさないことになります。国内の中小企業労働者は全産業の約7割といわれます。仮に、その中小企業のほとんどが国内を生存基盤にしていると仮定すれば、その従業員の賃金・所得が上がるはずがありません。インフレ誘導と消費税のアップも加わり、円安の進行によってもたらせるものは、(何もしなければ)今までにない社会的な所得格差の拡大です。(インフレ誘導・消費税に反対している訳ではありません。念のため・・。)国内消費を刺激して日本の経済の足腰を強くするといった政府の思惑とは反対の方向に経済の歯車が回り始めることを心配します。
我々は溢れる豊かな表舞台を長く見続けていたせいか、日本は人的資源以外には、昔も今も海外に頼らざるを得ないという現実を忘れかけているかもしれません。外貨を稼いで他の資源を獲得する。あるいはイノベーションを誘発するような投資を呼び込む。この二つしか繁栄を維持する処方箋はありません。前段の論旨と逆説的に聞こえるかも知れませんが、国の産業政策は、補助金や規制といった保護的政策ではなく、国内の産業や企業の活力・競争力を真に高め、国際競争力のあるものを絶えず生み出していく大胆な仕組みが必要です。当然、強い痛みを覚悟の上で・・・・・